吉備国際大学

アニメーション文化学部 アニメーション文化学科

スペシャルインタビューvol05冨田聡准教授に聞くアニメーションを学び、就職するということ

冨田聡アニメーション文化学部・准教授略歴
1967年生。1994年東京芸術大学絵画科油画専攻卒。1996年同大学院美術研究科油画技法材料研究室修了。老舗の美大受験予備校すいどーばた美術学院の講師、都心の大手専門学校である日本電子専門学校、最大手の日本工学院専門学校で専任教員を歴任。文科省事業アニメ人材育成委員を担うなど、商業アニメーションの人材育成に長く携わってきた。特にアニメーターのポートフォリオでは15年に及ぶ研究と指導を積み重ね、多くの人材を人気・難関のアニメ企業へ排出。商業アニメの人材育成と就職のスペシャリスト。2022年10月よりアニメーション文化学部准教授。

Questionアニメーションを学ぶ進路を選ぶために

――中学校・高校のころの進路決定に当たっていろいろと考えたり悩んだりしたことを教えてください。

小学生の頃からアニメが好きでしたが、高一の進路希望調査で初めてアニメーターになりたいと自覚し、それまでやっていたサッカーを辞めて美術部とマンガ研究会に入りました。下記の通りそれまでは全然美大を意識していませんでした。

――高1で進路希望調査を書くときにアニメーターになりたいと自覚されたのはどうしてだったのでしょうか。小さい時からやりたいことを考えられたとか、進路希望調査を書きながら何か印象的なことを思い出されたとか、その自覚されるにいたる道筋をお教えいただけないでしょうか。

小さい頃からアニメの優秀な作り手に興味があったので、将来は自然にアニメーターになりたいと思うようになりました。 調査の後に校長室に呼ばれ、何故かそこに担任がいて、頭ごなしに「アニメーターとはなんだ!もう少しまじめに考えろ」と言われケンカになったのを憶えています(笑)。80年代前半ですとまだ仕事として理解されていない時代でした。

――美大受験を目指したきっかけと経験からの、アニメーションを含む美術系の学科の受験に対する心構えを教えてください。

アニメーターになるには先ずしっかりとしたデッサン力を付けねばと思い美術部に入りましたが、その後に美大受験の存在を知り大手の予備校の超絶に上手いデッサンや油絵などを見て感化され、高二より池袋の予備校に通い出しました。
心構えとしては作品を作る学科なので以下の点が大事と思います。
①先人の技術や表現を探究し自作品へ積極的に応用する(温故知新による鍛錬)。
②友達と日頃から互いの作品、著名な作品やクリエイターを語り合う(切磋琢磨)。
③小さい成功体験を積み上げて行く事を数年続ければ確固たる自信へと繋がる(制作の習慣化)。

――ご自身の経験と、専門学校での学生の指導や受け入れ経験から、一般の美術系受験とアニメーション・ゲーム系の受験の違いを教えてください。

専門学校は、アニメーション教育の中でも個人作家でなく商業アニメ(集団制作)の人材育成に特化しているので、その枠組みで以下説明します。
美大の多くは個人作家を育てる機関ですが、アニメやゲームはグループワークで制作をする人材を育てる事が目的、という点が最も異なります。 高校生では、まず他人の意見や考えを安易に否定せず、理解しようとする力が必要と思います。無関心なのも論外です。
さらに自分の意見は、他人の立場になって考えて発言する姿勢が望まれます。言いたい事だけ言う自己中では誰も味方にならずグループワークでは排除されてしまいます。
また、日本のSNSは欧米と異なり匿名なのを良い事に、周囲に対する陰口や中傷などをしている人が多いようですが、それは 最も会社が採用を避けるタイプであることを肝に銘じて欲しいです。例え入社後であっても発覚した場合は処分や解雇につながるケースが実際にあるので、ついSNSで書いてしまった事で不利な状況を産んでしまわないよう気をつけたほうがいいです。 グループワークを必要とするアニメやゲームの企業ではSNSを禁止する会社も多く有るので(守秘義務も含め)、尚更周囲を理解し良好に関係を築ける事が必要とされます。
受験に於いて最も異なるのは、美大は予備校に通う点です。早い学生は高1から、遅くとも高3から週6で夜間通い、入学前に相応の技術を習得します。
難関の東京芸大や人気の私立美大では浪人が当たり前。浪人生は予備校で朝から夕方まで週6で描いています。
入試では実技試験が複数あり(油画科で有ればデッサンと油絵)、首都圏や著名な美大は倍率も高いです。
一方、専門学校はよほど高校在学中に問題が無い限り入学が可能。入試は面接や簡単な筆記試験、作文などがありますが、少子化の影響で落選はほぼ無いです。
美大と異なり入学後に技術の習得を行いますが、知識系の授業などもある為、美大生と比較するとデッサン力は劣ります。しかし、職業教育に特化しているので、専用ソフトの習熟度などは相応に有る為、企業から見れば採用しやすいです。

Questionアニメーション制作を教えるという立場から

――アニメーション専門学校で教えることになったきっかけと、その前後に考えられたことを教えてください。

東京芸大の先輩で私と同じくアニメ好きだった方から講師の仕事で誘われて「学科は?」と聞いた所、アニメとの事だったので  即答で請けました。
担当科目はデッサンで、当初は美大的なデッサンを教えていましたが、目標とする人材が美大と異なる事を内勤になった6年目辺りで気付き出し、徐々にカリキュラムを変更しアニメ人材に特化した内容へ更新して行きました。その成果が2009年辺りから現れ、それまであまり内定が取れなかった大手や中堅の企業へ学生を送り込めるようになりました。

――美術教育で培った経験や知識で、とくにアニメーション制作で役立つと思われることにはどのようなものがありますか。

分かりやすい所では観察力と描写力です。当然ですが作品を作る熱意、完成させる粘り強さも同様です。
具体的には、キャラクターを描く為に必要な人体解剖学の知識やその描写力、背景を描く為の遠近法、陰影や質感の描写力などです。アニメに必要な約束事は会社に入ってから本格的に学びますが、描写力は入社後に学ぶ機会が中々無いので学生の内に伸ばす必要が有ります。また美大受験の大手の予備校で教鞭を取る中で習得した「大学別の傾向と分析」のノウハウは、そのまま「難関企業の対策」に活かしています。

――先生がアニメーション制作について指導される際にとくに学生に心構えとして知っておいてほしいことにはどのようなことがありますか。

上記の通りグループワークで作るので、先ずは任された作業をスケジュールに則ってこなせる事。監督や演出など中心者の指示を十分に理解し、求められた成果物を作れる事です。納期に遅れが生じれば周りに迷惑を掛けてしまいますし、指示と違った物を作ってしまったり不十分で有ればリテイク=やり直しになります。それはプロの現場でも全く同じです。その点を理解していれば円滑な制作と完成度の高い作品作りに繋がるかと思います。

Questionアニメーション業界で働くということ

――絵が得意なので、アニメーション制作を学んで、業界で働いてみたいという中学生・高校生に対して、学校選びなどで助言をお願いします。

同じ絵を描く仕事でもアニメーター=作画マンは動かす事に興味が無いと続かないので、先ずはノートの端にパラパラマンガを描いて、楽しい、面白いと思える事が必要と思います。また、背景美術は止め絵で風景や室内を描きますが、日本のアニメの黎明期から美大の油画科や日本画科から就職するケースが多かったので背景美術と親和性が高い職と言えますが、現在はアニメ学科のある学校が多いので、アニメ美術志望なので有れば美大に行かずともアニメ学科の有る学校へ行き、卒業したら即仕事についてキャリア積むのが近道です。但し、アニメーターも背景美術も日々上達を心掛ける姿勢が無いと能力職故にその努力次第で給料が変わる職でも有り、例えればプロ野球の選手と同じです。ですので高校時代から絵を描き精進して欲しいです。
「描写力」を伸ばすということでは、前提として継続の無い訓練は上達が望めないので、継続が必須条件となります。観察して描く事を継続する事ですね。身近な所に幾らでも描写力を伸ばせるモチーフが存在しています。また、昔から有る事ですが、好きなキャラクターの顔を得意なアングルでばかり描いていては上達しませんので、苦手なものを克服する事もプロを目指すなら大事と思います。

――逆に、絵が苦手だけど、アニメーション制作を学んで、業界で働いてみたいという中学生・高校生に対して何か助言はありますか。

アニメーター、背景美術といった描写力必須の仕事がある一方で、CGや撮影、仕上げ、制作進行など絵を描く能力をさほど必要としない職もアニメには有るのでその点は知っておいた方が良いでしょう。但し美術的な素養や物の見方などは養う必要が不可欠なので、デッサンの授業では苦手意識で逃げずに下手でも描く事。しっかり学んでおかないと会社に入ってから苦労します。

――アニメーション業界への就職はたいへんなのでしょうか。どのように取り組めばよいのでしょうか。

大変と言えばどの職でも就活は大変なものです。一般職でも楽では無いと言うことを中高生は認識しておきましょう。
とは言え、やるべき事をしっかりやって就活に備えて行けば必ず道は開けて行きます。 
大事なのは「この仕事に就きたい」、当学科で有れば「アニメを作って生活して行きたい」という熱意や目的感が有れば「大変」という感情はどこかに吹き飛んでいくものです。今まで名のある会社、人気作品を作る会社に入った教え子達は皆、「三度の飯よりアニメ制作が好き」という学生達でした。
将来への不安も有るでしょう、だからこそ経験を積み実力を養い未来に備える訳です。挑戦こそ若者の特権です。そう有って欲しいと願います。
そこまでの熱意が無いようなら「アニメは在学中の研究に留めて、就職は一般職」という選択も有りです。例えば、法学部に入った学生が全員弁護士にはならないのと同様です。
また、近年世界的に人気となった日本のアニメ業界は、多くの留学生が就職を志望して来日しています。従って競争率は上昇傾向ですので、上記の「アニメは研究に留めて就職は一般職に」という学生も必ず毎年存在します。「アニメ学科に入ったからには必ずアニメ業界に就職しなければ」と頑なに考える必要は無いので、入学時点では肩肘張らず「興味が有るので入学しました」でも構わないと思います。学ぶ中でアニメ就職への意思が高まって行くのが普通です(中には入学前から決意が固まっている学生も少数います)。

――ありがとうございました。


【2022年9月電子メールにてインタビュー】
インタビュー・文:平見勇雄
写真:今村俊介