吉備国際大学
  1. Home
  2. キビコクNEWS
  3. 学部・学科
  4. 農学部
  5. 農学部海洋水産生物学科 氷見英子教授と神奈川大学、国立国際医療研究センター研究所との共同研究成果が国際英文誌「Frontiers in Microbiology」に掲載されました
NEWS

キビコクNEWS

農学部海洋水産生物学科 氷見英子教授と神奈川大学、国立国際医療研究センター研究所との共同研究成果が国際英文誌「Frontiers in Microbiology」に掲載されました

2023年7月7日
  • 農学部

 ヒトや動物などの「多細胞生物」の体内には様々な微生物が生息しています。例えば、腸の内部に生息している細菌は腸内細菌とよばれ、これらの細菌は宿主の生理や病気の発生に深く関わっていることが知られています。腸内にいる細菌の中で、ヒトの健康に有用な作用をもたらすものが「善玉菌」、その反対を「悪玉菌」、それ以外は「日和見菌」とよび分けられていることは、良く知られている通りです。

 今回私たちは、「単細胞生物」である繊毛虫ミドリゾウリムシの細胞内にも多数の細菌が共生しており、これらの共生細菌がミドリゾウリムシの増殖・分裂を制御している可能性を初めて明らかに致しました。

ミドリゾウリムシの「ミドリ」とは藻類(クロレラに類似の緑藻)のことで、単細胞生物ミドリゾウリムシの細胞内には、数百個の共生藻が共生しています。つまりミドリゾウリムシは太陽光を利用して生存が可能な動物細胞です。神奈川大学化学生命学部 細谷浩史特任教授らの研究グループは、神奈川大学構内から単離したミドリゾウリムシ株の中から、外部からの餌(細菌などの微生物)の投与を必要としない「無餌培養株」を確立させることに成功しました。この無餌培養株を用いることにより、餌の細菌の影響を考慮せずに、真核単細胞生物であるミドリゾウリムシ細胞内での細菌の役割を今回初めて明らかにすることができました。

本研究成果をまとめた論文はEstablishment of an unfed strain of Paramecium bursaria and analysis of associated bacterial communities controlling its proliferation(筆頭著者:氷見教授)というタイトルで、本年3月に「Frontiers in Microbiology」(微生物関係の国際英文誌)で審査後採択され、公開されています(DOI 10.3389/fmicb.2023.1036372)。

 

【研究の概要】

ミドリゾウリムシは、「生物における共生のメカニズム解明」にうってつけの実験材料として、古く(1900年当初くらい)から注目を集め、全世界で共生研究の実験材料として広く使用されている。

ミドリゾウリムシに関するデータが蓄積されつつある一方で、研究者ごとに報告されるデータの再現性(研究者間における実験結果の一致)が低く、データに大きなばらつきがみられる傾向が年ごとに顕著になっていた。

この理由として、世界各地で、ミドリゾウリムシの培養条件が統一されておらず、世界各地の研究者ごとにバラバラであることが主な原因の一つであると認識されるようになった。

例えば、 (a) ミドリゾウリムシの培養時には「餌」が必要であり、各国の研究者ごとに様々な微生物(小型の繊毛虫やバクテリアなど)が餌として使用されていること、また、 (b) ミドリゾウリムシ自体のゲノムの解析がまだ完了していないため、研究者が各地で研究に使用するミドリゾウリムシ株が相互に同じものかどうか論文に記載できないこと、さらには, (c) 培養時の温度や、光照射強度、時間、さらには照射光の種類などが研究者間で同一かどうか不明であること、などが挙げられる。

このような「研究者間での培養条件が統一されておらず、データの再現性が低い」現況が続けば、本分野の今後の発展に大きな影響が出ると考えた。

そこで神奈川大学の研究グループは、2016年に神奈川大学構内で採取したミドリゾウリムシを単離/クローン化(たった1匹にして、それを2匹、4匹を増殖させること。ミドリゾウリムシの細胞集団を全細胞同じ遺伝子にすること)し、その後、外部からバクテリアなどの餌を一切与えず培養を継続し現在まで生存し続けることのできる株をピックアップし、その株を「無餌培養株」として確立した。

この株を全世界に広く頒布、同分野の研究者間で共有できれば、上記(a)の解決につながり、「研究者間における培養条件の統一」に大きく近づくことになると考えている。

また、餌としてバクテリアを投与せず長期間無餌培養を続ける過程で、培養液中に一定のバクテリアが存在し続けることを見出した。また、バクテリアを除去するため、抗生物質を投与したところ、本来なら抗生物質のターゲットとならない真核生物のミドリゾウリムシが死滅することを併せて明らかにした。これらの事実から、ミドリゾウリムシの生存にはバクテリアが必要であること、さらには、これらのバクテリアがミドリゾウリムシの増殖速度を制御している可能性を新たに指摘することができた。

 

【論文掲載についてのコメント】

本研究は、国立国際医療研究センター研究所の秋山徹感染症制御研究部特任研究部長、神奈川大学では細谷浩史特任教授(上出)の他に日野晶也名誉教授、井上和仁教授、小谷享教授、北島正治教務職員、また松島佑里さん(現在、神奈川大学大学院博士前期課程2年)をはじめとする神奈川大学卒業研究生と共同で実施致しました。

Frontiers in Microbiology(掲載論文)