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「観光」を教育から問う 〜吉備国際大学大西ゼミが共催した「備中高梁会議2025秋」レポート〜
- 経営社会学科
吉備国際大学社会科学部 経営社会学科 大西正泰研究室は、高梁100challenge(代表 横山弘毅)と共催で、2025年11月29日(土)に「備中高梁会議2025秋」を、吉備国際大学高梁キャンパス内の学生会館KIUB(キューブ)の2階にて開催しました。
今回の会議は、「高梁の観光と高梁川流域のつながりの可能性」がテーマでした。
会議の核にあったのは、「観光」を単なる名所巡りではなく、これまで「無価値とされていた地域資源を編集し、エンターテイメントに変える」という発想を共有することでした。これは、前例を模倣し「劣化版東京」のような「似たような街」を生み出す従来のまちづくりへの反骨心から、地域の独自性を高める「編集力」の重要性を問いかけるものです。
○基調講演:西谷雷佐氏が示す高梁の道筋と大学の意義
午前中の「観光パート」では、スペシャルゲストとして、青森県弘前市出身で「短命県ツアー」を生み出した旅行会社、たびすけ合同会社西谷代表(現・株式会社インアウトバウンド東北 代表取締役)の西谷雷佐氏が登壇しました。
西谷氏が自身の取り組みを通して最も大切にしているのは、「地域の人」への最大のリスペクト。住んでいる人の「日常」を観光に再編集することです。例えば、青森のりんご農家の日常、具体的には農作業中の外でのもつ鍋や、剪定技術といった「暮らしぶり」に着目し、それを「観光」に変えることで、地域住民が誇りを持ち、旅行者も地元を尊重するという好循環を生み出すとしています。西谷氏は、素材のまま提供せず、独自の編集をかけてエンターテイメント化する「編集力」が重要であると指摘しました。
西谷氏が示すこれからの観光の「軸」となる概念の一つは、「責任ある観光(Responsible Tourism)」であり、これを「観光 × 教育 × 地域の⽅針」としてまとめられています。教育を通じた人づくりは、知識と経験によって「編集力」を高め、地域の素晴らしさを埋もれさせないための「枠を壊す」意識的なマインドセットにつながります。講演のまとめとして、西谷氏は「高梁は教育を起点にして観光を考えていけばいい」と提案されました。観光においても、大学(教育)が貢献できる意義は非常に大きいと思いました。
○事例発表:大西ゼミ生が挑む「小さな贈与」と「交差点」づくり
午後の事例発表パートでは、高梁城南高校による「高校生が作ったベンチャー企業JONANホールディングス」と高梁観光協会U18ユース支部の取り組みについて発表されました。吉備国際大学からは、大西ゼミ生たちによる「小さな贈与を起点にした観光の土台づくり」の実践が紹介されました。
発表を行ったのは、3年生の新田鈴奈さん(リアル掲示板)と4年生の下岡希空さん(フリーコーヒー)です。発表のテーマは、ともに「何にもない場所や関係のない第三者が『交差できる場所』づくり」でした。
• フリーコーヒー: コーヒーを媒介として、人と人の交差が偶発的に生まれる仕組みを提案しました。
• リアル掲示板: オススメや悩みなどの「個人的な情報」を流通させることで、人がそこにいなくとも、時間差で「人と人の交差が偶発的に生まれる仕組み」を生み出します。目の前にいない「第3者への親近感」を生み出す装置であり、私的なやり取りが「公的な情報」ともなる「マイパブリック」な存在として注目されました。
この二つの装置が同じ場所にできることで、「異なる時間を生きている人」たちが掲示板で交差するという、非常に面白い「交差点」が生まれる可能性を示しました。
<感想 和歌山大学観光学部 出口竜也先生>
和歌山大学観光学部の出口竜也先生からは、以下のような感想が寄せられています。
「老若男女が集い、和やかな雰囲気の中にも人と人がつながることの本質を問うすばらしい会議でした。」特に、吉備国際大学3年生の新田鈴奈さんによるリアル掲示板、4年生の下岡希空さんによるフリーコーヒーについてのプレゼンは、「今後の可能性を大いに感じさせるステキな内容でした」と評価されました。出口先生は、「ぜひ、次の世代にバトンを渡すとともに、両者を掛け合わせることによる相乗効果を発揮してほしい」と次世代への期待を述べ、さらに、「大学生活の良き思い出で終わらせることなく、社会人になってからも熱い気持ちをもってさまざまな活動に取り組んでほしい」と、学生たちの継続的な活躍にエールを送って締めくくりました。




